「メタバース」という言葉は、約30年前にニール・スティーブンソン(Neal Stephenson)がSF小説の中で提唱したものです。近年、メタバースはムーアの法則に後押しされた理想的なデジタル体験の融合を意味するようになりました。メタバースはリアルタイムにグローバルで相互接続された仮想現実(VR)や拡張現実(AR)環境を実現し、何十億もの人々がまったく新しい方法で仕事をしたり、遊んだり、コラボレーションしたり、交流したりすることを可能にするという人々の憧れとなっています。実際に、メタバースは、ワールドワイドウェブやモバイルに次ぐ、コンピューティングの主要なプラットフォームになるかもしれません。
私たちは今、コンピューティングにおける次の大きな転換期を迎えようとしています。具体的には、持続的で没入感のあるコンピューティングを大規模に実現することです。映画のCGアニメーションは実写と見分けがつきませんし、ゲームでは非常にリアルなグラフィックを楽しむことができます。また、VRやARのディスプレイは近年急速に進化し、信じられないほどリッチで没入感のある体験を実現しています。一生に一度あるかないかというパンデミックにより、多くの人が、コミュニケーション、コラボレーション、学習、そして生活を維持するための唯一の手段として、デジタル技術に頼らざるを得なくなりました。分散型デジタルファイナンス技術の爆発的な普及により、誰もがこれらの分野でメタバースを作る役割を担えるビジネスモデルが生まれています。
2人の人間が完全にバーチャルな空間にいるためには何が必要なのでしょうか。それは、現実世界の3Dオブジェクト、ジェスチャー、オーディオなどを描写したセンサーデータに基づいてリアルタイムにレンダリングされたリアルな衣服、髪、肌の色を持つアバターや、超広帯域かつ超低遅延でのデータ転送、そして、リアル要素とシミュレーション要素の両方を含んだ環境の永続化モデルの維持などです。さて、これらの問題を大規模に何億人ものユーザーに対して同時に解決することを想像してみてください。そうすれば、現在のコンピューティング、ストレージ、ネットワークのインフラでは、このビジョンを実現するには不十分であることがすぐにわかるでしょう。
私たちは、数桁以上の性能の強力なコンピューティング能力を、より低い遅延でさまざまなデバイスのフォームファクターから利用できるようにする必要があります。このような能力を大規模に実現するためには、インターネットの接続全体を大幅にアップグレードする必要があります。インテルは、メタバースのための基本要素を3つの層に集約し、それぞれの重要分野を重点的に取り組んできました。
メタ・インテリジェンス層では、開発者が複雑なアプリケーションをより簡単に展開できるようにするため、統一されたプログラミングモデルとオープンなソフトウェア開発ツールやライブラリに焦点を当てています。メタ・オプス層は、ユーザーがローカルで利用できる以上の計算能力を提供するインフラ層です。そして最後に、メタ・コンピュート層は、メタバース体験を実現するために必要な馬力を提供します。
インテル® Core™ プロセッサーは何十年もの間、最高のゲーム体験を提供してきました。特に、リッチなゲーム体験に欠かせないシングルスレッド性能に優れています。今日のゲーム、VR/AR体験、映画のリアルなアニメーションの多くは、インテルのプロセッサーを搭載したPCやワークステーションで作られています。クラウドやデータセンターでは、インテル® Xeon® プロセッサーは、トランザクションの待ち時間を最小限に抑え、最大のスループットを実現するように最適化されています。また、インテルのエッジ・プロセッサー、インフラストラクチャー・プロセッシング・ユニット(IPU)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、5Gソリューションは、大規模な分散コンピューティングのメタバースにとって重要となる、クラウドとエッジのギャップを埋めます。
この新しい接続はより多くのことを要求します。新しいXeアーキテクチャーは、こうしたリッチで没入感のある体験を加速してレンダリングし、クライアントからサーバーエンドまでスケールアップすることを目的としています。ゲームやクリエイター向けのインテル® Arc™ Alchemist GPUや、ハイパフォーマンス・コンピューティングとバーチャライゼーションを加速するPonte Vecchioなどがあり、いずれも来年発売予定です。これらの2022年に発売予定の製品以外にも、クライアント向けやエッジからクラウドに至るまで、高性能XPUの多世代にわたるロードマップを用意しており、今後5年間でゼタスケール・コンピューティングに向けて取り組んでいきます。
真に持続的で没入感のあるコンピューティングを、大規模かつ何十億人もの人間がリアルタイムで利用できるようにするには、さらに多くのことが必要です。計算効率を現在の1,000倍に向上させる必要があります。これを実現するために、トランジスター、パッケージング、メモリー、インターコネクトなど、さまざまな技術が開発されています。先日開催されたIEDM 2021では、その一部をご紹介しました。目標達成のためには、ハードウェアの改良だけでなく新しいアルゴリズムやソフトウェア・アーキテクチャーの開発も必要です。
今日のインターネットは、オープンな基準に基づいて構築されていたからこそ、私たちの世界を変えることができました。インテルでは、既存の業界基準を活用・補強し、新たな標準を策定することで、未来のインターネットを構築することを目指しています。
没入感のある仮想世界が現実世界を拡張するこの技術は、多くの可能性をもたらし、私が毎日楽しみながら仕事ができる理由でもあります。1ペタフロップの演算能力と1ペタバイトのデータを、地球上のすべての人間が1ミリ秒以内に利用できるようにするという夢は、私たちの手の届くところにあると信じています。